マイクロプラスチックとは? 環境への影響と対策
海洋プラスチック問題のなかでも深刻な影響があるとされるマイクロプラスチック。いま、このマイクロプラスチックについて世界的に懸念が高まっています。どのような影響があるのでしょうか? マイクロプラスチックの環境への影響や対策について詳しく解説します。
1.マイクロプラスチックとは?
マイクロプラスチックとは5mm以下の微細なプラスチック粒子のことをいいます。マイクロプラスチックには一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックがあり、発生源によって異なります。
1−1.一次マイクロプラスチックとは
プラスチックの原料となる数mm程度のレジンペレットや、化粧品や洗顔料、歯磨き粉に入っているスクラブのマイクロビーズが一次マイクロプラスチックに含まれます。
1−2.二次マイクロプラスチックとは
プラスチック製品が細かくなった破片で、海辺や街に捨てられたプラスチックや廃棄されたプラスチックゴミが海へ流出し、紫外線や波などによって劣化してできたものです。
そのほかにも農業で使われているビニールハウスの劣化や、タイヤや靴の摩擦によって生じたマイクロプラスチック、化学繊維を使用した衣類が洗濯時に摩耗され洗濯水に流れ出たしたりしたものなどもあります。
近年、そうしたマイクロプラスチックの海への流出が問題になっています。
2.マイクロプラスチックが海へ流出する原因と流出量
2−1.海に浮遊するマイクロプラスチック量と分布
海に浮遊しているマイクロプラスチックの量は5.25兆個(268,940トンに相当)あるといわれています。
以下図はマイクロプラスチックの海洋分布です。北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋が特に多いことがわかります。
【出典】
EICネット[エコチャレンジャーインタビュー 第52回 東京農工大学農学部環境資源科学科・高田秀重教授に聞く、マイクロプラスチックによる海洋汚染の実態と対策[2]]
2−2.なぜ海へ流出してしまうのか
それではなぜマイクロプラスチックはこんなにも海へ流出しているのでしょうか。
一次マイクロプラスチックは、化粧品などに含まれるマイクロビーズやペットボトルの原料となるレジンペレットです。
日々使用する洗顔料やボディシャンプー、歯磨き粉に含まれているマイクロビーズは使うたびに生活用水として下水に流れ出ます。しかしマイクロビーズは小さすぎるため、下水処理をすりぬけてしまい海へと流れ出てしまうのです。
ペットボトルの材料となるレジンペレットは工場へ運ばれる際にトラックから落ち、風に飛ばされて近くの川へ流れ込み、海へと運ばれ流出してしまいます。
二次マイクロプラスチックは、海辺の近くで捨てられたゴミだけでなく、街でポイ捨てされたビニール袋やお菓子の袋などのゴミが風に飛ばされ、川から海に運ばれ、紫外線や波に晒されることで劣化し細かく砕かれマイクロプラスチックとなります。タイヤや靴が道に擦れてでた屑も同様です。
また、急激な経済発展や人口増加により、プラスチックの使用量が増えたのにも関わらず、廃棄処理が十分に整備されていないアジアを中心とした国からプラスチック製品が海へ流出していることも原大きな要因となっています。
以下図は世界の海洋プラスチックの分布図です。赤茶色の箇所が海洋プラスチックが多く流出している国です。日本は焼却処分しているから海洋プラスチックが少ないと思うのは早計です。日本の近海でも多くの海洋プラスチックが確認されています。これらがやがてマイクロプラスチックとなるのです。
そのほか、ポリエステルやナイロン、アクリルなどを使用した衣類を洗濯した際にでるマイクロプラスチックもあります。マイクロファイバーといい、こちらも下水処理をすり抜け海へ流出しています。
世界的に有名なアウトドアブランドのパタゴニアが調査した結果、一度の洗濯で布地から31,000〜3,500,000ものマイクロファイバーが確認されています。特にフリースのような起毛した布地のほうがマイクロファイバーの発生量が多いようです。低品質のフリースは特にマイクロファイバーの発生量が多いため、使用を控えるよう警告をしています。
参照:
マイクロファイバー汚染について私たちができること – クリー … – パタゴニア
洗濯からでるマイクロファイバーは、マイクロプラスチックよりも形状が安定していないことにより、より小さな生物の体内に侵入し、食物連鎖で人体に入り込む可能性があるとの見解を示しています。
参照:
海の極小プラスチック繊維について私たちが知っていること – パタゴニア
2−3.砂浜がマイクロプラスチックをつくっている?
海に流れ出たプラスチック製品はやがて砂浜に打ち上げられます。これは海の波の「ストークス・ドリフト」という現象によるもの。波は進む方向に漂流物を押しやるので、海を漂流しているプラスチックが砂浜に打ち上げられるのです。打ち上げられたプラスチックは紫外線に晒され、砂浜の砂に揉まれることによってマイクロプラスチックになり、再度海へ流れ出ます。
マイクロプラスチックは小さいため、一度沖に流されると岸に戻る力を受けにくくなかなか戻ってきません。このようにして、マイクロプラスチックは砂浜で作られ海に広がっていくのです。
とても小さなマイクロプラスチックは海へ流出してしまってからでは回収が難しくなります。そのため、まずは浜辺のプラスチックゴミをマイクロプラスチックになる前に回収するのが効果的だといわれています。
3.マイクロプラスチックの海への流出による影響
マイクロプラスチックが海へ流出することでどのような影響があるのでしょうか。
3−1.海洋生物への影響
海の魚や微生物がマイクロプラスチックを誤飲したり摂食したりして体内へ蓄積されていきます。マイクロプラスチックの大きさによっては死に至ります。 また、食物連鎖により人体からも検出されています。現在、人体への影響は確認されていません。
3−2.マイクロプラスチックに付着した高濃度の有害物質
マイクロプラスチックの大きな問題は有害物質を含んでいることです。プラスチックは油に馴染みやすく、有害物質を吸着する性質をもっており、高濃度のPCBs(ポリ塩化ビフェニル)やDDT(ジクロロジフェニルジクロロエチレン)などの付着が報告されています。
PCBs(ポリ塩化ビフェニル)は以前日本でも大量に使われていた有害物質です。現在では使用が禁止されていますが、分解に時間がかかるため残存していたものが付着したと考えられています。
また、プラスチック自体にも有害物質が含まれています。燃えにくくしたり、軟らかくしたり、酸化を防いだりするために、環境ホルモンや鉛などの有害な重金属が含まれた添加剤が使われています。
これらの有害物質がマイクロプラスチックを通して海洋生物に蓄積され、私たちの体内にも入り込んでくる可能性があるのです。
参照:
- マイクロプラスチックによる海洋汚染 共通教育科 准教授 四ノ宮 美保
- 東京農工大学農学部環境資源科学科 マイクロプラスチック汚染の 現状、対策、国際動向
- 洗顔料や歯磨きに含まれる マイクロプラスチック問題|大妻女子大学 兼廣春之
- マイクロプラスチックによる海洋汚染ゆき -生態系への影響-|東京海洋大学 名誉教授 兼廣 春
4.マイクロプラスチックの対策
世界的にマイクロプラスチックによる影響が懸念されるなか、さまざまな規制が国際的に広がりを見せています。
4−1.世界に広がるマイクロプラスチックに関する規制
2014年にイギリスではマイクロビーズを使用した化粧品の販売を禁止することを発表し、2018年1月1日に施行されています。2015年にはアメリカのカリフォルニア州でもマイクロビーズを使用した化粧品の販売禁止の法案が可決されました。
アジアでは台湾が2018年にマイクロビーズを使用した化粧品の輸入・生産を禁止しました。2020年には販売も禁止されます。 そのほか、2014年にアメリカのカリフォルニア州でレジ袋の提供やペットボトル飲料の販売が禁止、EUでも年間の使用量を2025年までに一人年間40枚までに削減、フランスでは2020年から使い捨て食器の使用を禁止するなどの動きもあります。
4−2.日本でのマイクロプラスチックに関する規制
日本は依然としてマイクロプラスチックに関する規制はされておらず、残念ながら世界に比べると動きが遅いと言わざるを得ません。
ですが自主的に、日本化粧品工業連合会が、2016年3月に会員企業1,100社あまりに対してマイクロビーズの使用中止を促す通達をしています。
4−3.化粧品業界のマイクロビーズへの対策
マイクロビーズの規制に関する法案化をうけ、アメリカの「ジョンソン・エンド・ジョンソン」、「P&G」、イギリスの「ユニリーバ」、フランスの「ロレアル」といった企業がマイクロビーズを使用せず、天然の種子などを使ったスクラブに変更するとしています。
日本では、2016年に花王がセルロースやコンスターチといった天然由来成分のスクラブに変更したと発表しました。2018年には資生堂もマイクロビーズの代替素材に全て切り替えたとしています。
参照:
4−4.バイオプラスチックはプラスチック問題の解決になる?
バイオプラスチックとはトウモロコシや大豆などのバイオマスを使用したプラスチックと、微生物によって水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックのことを指します。
一見トウモロコシが原料のプラスチックや、分解されるプラスチックならプラスチック問題の解決に良いのでは? と思いますが、これらには石油を使ったプラスチックも含まれ、必ず分解されるとはいえないのです。
石油を原料としない生分解性プラスチックも、分解されるには長い時間がかかるのではという見方もあり、現状プラスチック問題解決に大きなインパクトがあるとはいえないようです。
しかし現在「イデオネラ・サカイエンシス 201-F6」という、PET (ポリエチレンテレフタラート)を二酸化炭素と水に分解する酵素を作り出す細菌が発見され、研究が進められています。
参照:
5.私たちにできること
日本はプラスチックの生産量が多い国の一つです。まずはプラスチック製品を使わない、レジ袋をもらわない、使いすてプラスチックを使わないというリデュース(Reduce)を意識し、プラスチックの使用量と廃棄量を減らしていくことが重要です。
また、浜辺のプラスチックゴミを拾うことも私たちができることの一つです。一人ではじめにくいのであれば、国や自治体・団体が開催しているゴミ拾いに参加するのもよいでしょう。
国も推進している「海と日本Project」でも「海ごみゼロウィーク」が開催されています。
現代の生活の中でプラスチックを使わないことは不便かもしれません。しかしプラスチックを使わないことでかかる負担を、私たちは受け入れていくことが大切なのではないでしょうか。