海洋プラスチックを使ってつくられたクジラの実物大モニュメント
2018年10月に、サンフランシスコのゴールデンゲート国立保養地に現れた青いクジラのインスタレーション。この作品は、カリフォルニアの有名水族館であるモントレーベイ水族館によるもの。さまざまな意味が込められている「Life-Sized Blue Whale(ライフサイズド・ブルー・ウェール)」について紹介します。
海洋プラスチックでできたシロナガスクジラ
ライフサイズド・ブルー・ウェールとは、「実物大のシロナガスクジラ」という意味です。地球で最も大きな生物であるシロナガスクジラ。モントレーベイ水族館が制作したこのアート作品は、海洋プラスチックでできており、その大きさは実際のシロナガスクジラと同じなのです。その体長は82フィート(約25メートル)におよび、体重は30万ポンド(約13.5トン)。
30万ポンドという重さは、9分間に増える海洋プラスチックの量と等しいのだとか。巨大な大きさのシロナガスクジラの実物大を目にすると、どれだけの海洋プラスチックが生まれているのか、想像が難しいほどに大きな問題であることが分かります。
そして、シロナガスクジラという題材は、海洋汚染の被害者である海の生き物を想起させます。モントレーベイ水族館の専務であるジュリー・パッカードも「問題の大きさを分かりやすく表現するために、実物大のシロナガスクジラをつくりました。この作品を見た人が、プラスチックの消費について考えなおそうと刺激を受けたり、野生の海洋生物を守ってくれたりすると嬉しい」と述べています。
カリフォルニアのアーティストチームによる手づくり
この巨大なライフサイズド・ブルー・ウェールは、ベイエリアのアーティスト、ジョエル・ディーン・ストックディルがユスティナ・サルニコフと共同制作しました。ストックディルは、素材を再利用して作品をつくることで知られているアーティストです。
このサイズの作品をプラスチック廃棄物からつくるのは、恐ろしいほどの時間と手間を要しています。
彼の工房はリサイクルセンターのようになり、プラスチックゴミを集めて、まずは色別と種類別に分けます。もちろん機械の力など借りることはできません。一つひとつ手で分別します。そして、それを少し小さめにカットしていきます。カットされたプラスチック片はすべて水で洗います。
次に、木片チップを成形して、木型をつくります。プラスチック片をオーブンで熱し、成形可能な状態にして、木型にはめこみ、圧力をかけます。それを冷やすと、一枚の丈夫なプラスチックパネルが完成します。これでプラスチックゴミが美しいアートワークの1ピースに生まれ変わったというわけです。
クジラ本体の骨組みにそのパネルをジグソーパズルのように貼り合わせていきます。その数、なんと749回。分別からカット、洗浄、成形、貼り合わせまでのプロセスを749回繰り返して、このクジラは生まれました。
約半年間、ゴールデンゲート国立保養地で展示されていたライフサイズド・ブルー・ウェールは、多くの人に海洋プラスチックについて考えるきっかけを与えました。
ニューメキシコのアート&エンターテイメントグループ「Meow Wolf」のもとへ!
さて、今回、モントレーベイ水族館に取材したところ、ライフサイズド・ブルー・ウェールは、もうモントレーベイ水族館の手を離れたとのこと。この作品は、ニューメキシコ州のサンタフェを拠点に活動するパブリック・アート&エンターテインメントグループ「Meow Wolf」が購入したそうです。
モントレーベイ水族館としては、このブルー・ウェールをずっと展示したいそうですが、場所がそれを許さない事情もあり、継続的に展示する方法を模索したところ、Meow Wolfが引き受け手となり、現在はサンタフェ・コミュニティ・カレッジへの常設を計画中とのことです。 今は観ることができませんが、近いうちに、誰もが気軽にこのインスタレーションに触れることができるようになりそうです!